共食を広めて孤食文化をなくしたい

笹津敏靖(Sasazu Toshinobu)

eatop代表、九州大学2年(2018年12月現在)

プロジェクト紹介シリーズ

TOMODACHI-Microsoft iLEAP Social Innovation and Leadership 2018夏プログラム(※1)参加者のプログラムを通じて得た学びと自身のプロジェクト(※2)についてお伝えします。
第五弾は、料理を共に作り共に食べるという「共食」を通して、世代や国籍を超えた繋がりを作り、孤食文化という社会問題の解決に挑むプロジェクト「eatop」を行っている笹津敏靖さんです。

※1-18~25歳までの方を対象とし、日本、アメリカ、そして世界にポジティブな変化をもたらすことができる、日本の次世代社会起業家やコミュニティーリーダーを育てるためにデザインされたプログラムです。全国各地から選び抜かれた参加者たちが、米国ワシントン州シアトルと日本の両方で、体験型リーダーシップトレーニングを受け、日本社会に実際にイノベーションを起こしていきます。 計約5か月間のプログラムで、3つのフェーズに分かれています。フェーズ1(2018年7月~8月)は日本での準備期間、フェーズ2(2018年8月)はシアトルでの4週間研修、フェーズ3(2018年9月~11月)は約3か月間の日本でのプロジェクト実行期間です。
※2ー日本社会をより良くするために、参加者が自分の夢や想いに従って行う社会改革活動です。

プロジェクト紹介

「eatop(イートップ)」は「食」というコミュニケーションツールを通し、世代や国籍を超えつながり、共に食事を作り、共に食べる場所や機会を提供します。「孤食文化」という社会問題をなくせるのではないかということから考案した共食プロジェクトです。

過去フランス滞在中に、食がテーマであったミラノ万博へ行った際、産地から食卓までの食文化を日本屈指の技術を用いて展示していた日本のブースに感銘を受け、「食育」に関心を持つように。調べていくうちに様々な「食」の社会問題を発見し、現在大学にて新しい食育の形を探求中です。

プロジェクト名「eatop」は、食べるの「eat」 と現在住んでる福岡県の「ito」(伊都、糸島)と福岡の方言である「いいと?いいと。」(一緒に食べてもいいと?いいと。)をかけています。

eatopのインスタグラムアカウント:@mushamushaeatop

運営メンバーと、料理メニューの考案から制作まで手伝ってくださった「惣菜畑がんこ」さん
食事を通じたチームビルディングから見えてきた、共食の大切さ

本プログラムを通して得た大きな学びは、チームビルディングの大切さ、チーム力を上げるためのコミュニケーションが凄まじい力を生むということでした。シアトルでの自分のグループプロジェクトのテーマが「農業」だったので、自分たちも食を大切にしたいと思い、グループメンバーと朝、昼、夜と場所を変えながら「食べる、話す、笑う」という本当にシンプルなことをし続けました。これを繰り返すうちに友達同士の空間が家族の空間のようになり、「目指していた共食空間はこれだ!」という実感が湧きました。グループのメンバーがここまで繋がることができたのは食事のおかげです。

シアトルでのグループメンバーとの食事

プログラム参加以前は自分が共食というテーマを掲げているものの、プロジェクトで具体的に何をしていけばよいのかや、共食の大切さが曖昧で、自信がありませんでした。とりあえず食べていればいいやと思っていました。でも実際にグループ内でこうして食を通じてチームビルディングをしていくことで、自分の中での共食の大切さが明確になったのです。

プログラムに参加して形になったプロジェクト

大学一年目の春、カフェで知り合った農家の方を訪れた時、多くの高齢者たちがご飯を茶碗山盛りで食べている「共食」の光景を目の当たりにしました。そのアイデアを元に共食イベントを開催することからプロジェクトをスタートしましたが、本プログラムに参加する前は、持続性がなく、プロジェクトとしてあまり形になっていませんでした。

シアトルで共食を通してチームビルディングができると体感したことで、日本に帰国してから、驚くほどプロジェクトが進みました。まず、仮のメンバーだった7人が正式にコミットしてくれて、正規メンバーが10人に増えました。毎週木曜の夜に、皆で食卓を囲む「会議付き食事会」と称した、あくまで食事がメインである会議を行っているのですが、以前に比べ参加率もよくなりました。共食が互いを知るきっかけにもなり、開催するごとにチーム力が向上しているのを実感しています。

会議付き食事会の様子
ブロックパーティーでの食事
シアトルで見た共食のメリット

ホームステイ先では、ホストファミリーが色々な共食文化について話してくださり、食に関する知識と教養を学べました。また、「ブロックパーティー」(※)という地域のイベントでは、自分のプロジェクトへのヒントを得ました。これは共食で人の幸福指数を上げるだけでなく、ご近所同士がお互いに知り合うことで地域の防犯機能も兼ねているのです。今私が住んでいる所は、全く近所同士の交流がなく、近所に誰がいるのかわかりません。日本でもこのブロックパーティーを取り入れれば、例えば地域の高齢者の健康状態を把握できるなど、メリットがあると思いました。

※ブロックパーティー:区画内に住む近所同士が持ち寄った食事を、野外で共に食べるパーティー。シアトルでは天候のいい夏によく見かけられる。

食事が幸福をもたらす「口福」を体感

同じグループメンバーのホストファミリーでありながら、シアトルで環境に優しいサステイナブルな食を提供している団体(※)の代表、麻子さんのお宅で2回、グループで夕飯をご馳走になりました。この経験もとても大きかったです。

麻子さんのお宅は、ただいまと言えるような温かい環境で、お互いに信頼しているグループメンバーと落ち着くことができる、隠れ家的な空間でした。彼女の家は、まるで我が家のように「また帰ってきたい」と思えるとても心地のよい空間で、彼女が用意してくれた食事を食べると、「口福(こうふく)」という言葉が自然に出てきました。食事が幸福をもたらすという意味です。

麻子さん宅での食事

特にシアトル滞在中、ほかの参加者よりも英語が少しできるからということもあって、無理をして自分を追い詰めていたのですが、ここではその緊張感がなくなっていきました。心落ち着く空間で「食べて、話して、笑って」というありきたりに見えて意外と難しい共食のヒントを、ここではたくさんもらいました。

※The Sustainable Collective: https://www.thesustainablecollective.org/

「地元がない」から「帰りたい場所がたくさんある」に

以前から私は、地元という言葉にジレンマを感じていました。生まれは東京だけれど、育った場所は多様で、「地元がない」ということをコンプレックスに感じていました。でもシアトルでその考えが一変しました。地元がなくても、帰る場所は家族や親友など信頼できる人がいるところだと自分の中で定義づけることができたのです。グループメンバーも、ホームステイ先も、麻子さんのお宅も、その「帰る場所」でした。いつでも「ただいま」と言える環境が各地に整っていると思うと、「地元以上」の安堵感を得られます。自分のコンプレックスが解消できた、貴重な機会でもありました。

マイクロソフトが実践する姿勢をプロジェクトに取り入れた

シアトルでマイクロソフトアドバイザーの方から、「どんなことでも伝えることが重要」、「部下からのフィードバックを吸収しないと後々倒れる」と教えていただきました。今のマイクロソフトの社長がこれを実践しているとも伺い、シアトル滞在中、グループ内で「隠し事はしない」、「言いたいことは全部言う」ことを心掛けました。そして実際にそういう環境を作ることができました。

現在のプロジェクトチーム内でもそれをルールにしていますが、皆まだ慣れていなくて抵抗があるようです。そのうち何でも話せる関係になれたら、成長しているという証拠になるかなと思います。シアトルでは実際にそういう環境づくりができたので、日本でも不安要素を取り除き何でも言える環境づくりをしていきたいです。

シアトルのマイクロソフトアドバイザーChigusa Sansenさんと
帰国後見えてきた目指すリーダー像とテーマや課題の明確化

帰国後のマイクロソフトアドバイザーの方とのセッションの中で、1つ大きなことに気づかせてもらいました。それは、自分が目指しているリーダー像は他者を巻き込んでいくインフルエンサーだったということです。一緒に話しながら、今まで自分がやってきたことを振り返ることで、自分には人を巻き込む力、人に影響を与える力があるのだと気づき、もっと自分の力を磨きたいと思いました。例えば、シアトルで会った時は食に興味がなかった子が、私の食に対する想いを聞いて興味を持ってくれて、帰国後「お弁当作ってみたよ」とメッセージをくれたりしたのですが、自分が影響を与えることで、自分も幸福になると気づきました。

マイクロソフトアドバイザーの方と話し、自分が目指しているものがより明確化しました。アドバイザーの方とのお話を通して、他者とのコミュニケーションが新しいものを生むという学びをプロジェクトに反映させていくことにしました。

帰国後マイクロソフト品川本社でのセッションにて

他にも、マイクロソフトアドバイザーの方からは、目標の数値を設定したほうがいいとのアドバイスをいただきました。確かに数値がないと曖昧に終わりそうだと思い、共食イベント後のアンケート調査を始めました。結果を数値化して目標設定をしていこうと思います。

帰国後のETIC.のセッション(※)では、自分のプロジェクトのターゲット設定が曖昧であることに気づくことができました。また、「共食を重視した食育」にも栄養学的な要素が説得力を持たせるために必要だということを再認識しました。

※Phase3では、提携団体のETIC.によるマンスリーセッションがプロジェクトの事業化を目指す希望者に対して行われました。

帰国後イベントや会議を開催し、3か月で100人以上の人を巻き込んだ

10月14日に果樹園で開催した「大学生x柿狩りx共食」のイベントには、40名の方々が参加してくれました。アドバイザーさんのアドバイスに従って早速実施したイベント後のアンケート調査では、回答してくれた26名ほぼ全員が「食や農業等に興味や関心を持つきっかけになった」、「自分で食事を作ってみたくなった」と回答してくれています。

11月4日に古民家カフェで開催した「留学生x地域x共食」のイベントでは、45名が参加してくれました。地域留学生を対象に事後アンケートを実施してみたところ、回答してくれた23名のうち20名がイベントに高評価をつけてくださいました。また、「料理教室にも参加してみたいですか?」という質問に対しては全員が「はい」もしくは「多分」と回答してくれました。

他にもプロジェクトチームのメンバー限定で、農家さんや地域の方々との共食イベントを2回開催。高校生と留学生を対象にした共食イベントも開催しました。 さらに大学生の料理対決イベントなどを開催予定です。

今後も、本プログラムで培ったチームビルディング力を生かし、プロジェクトチーム内での満足度を最大化してチーム力を向上し孤食文化を無くすための活動を続けたいです。そして来年の2月までには地域メディアに取り上げられるというのが今の目標です。またSNS(※)のフォロワー数も増やしていきたいと思っています。

※インスタグラム:@mushamushaeatop

「大学生x柿狩りx共食」のイベントにて。皆で作った柿カレーと共に

2018年12月13日掲載

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